亡き師はかく語りき 最終回 師の命日に

 1956年のウィーン・フィルハーモニー管弦楽団の初来日、敗戦国だったオーストリアが10年に及ぶ占領から解放され、独立し、初めての本格的な海外公演だったこと。

 指揮者に反ナチのパウル・ヒンデミットを擁し、同じ敗戦国を訪れたこと。

 それらを教えてくださったのは、日本のファゴットの第一者であります馬込勇さん。

 馬込さんは高校卒業後、ウィーン国立アカデミーに留学し、ウィーン・フィルの初来日の際に独奏を務めた首席奏者、カール・エールベルガーに師事しました。

 初来日公演のプログラムは留学中に師から見せていただいたそうです。

 そして師は弟子にこう言ったのです。

 「クラシック音楽の歴史はそれほど深くない。1956年(=モーツァルト生誕200年)、日本でモーツァルトの協奏曲を吹いた時はちょうど4月。お前はその翌月の5月9日に生まれた。つまりお前とモーツァルトはたった200年しか離れていない!」

 馬込さんの書簡でこれを読み、気が遠くなり昇天するような思いになりました。

 今日は馬場省一先生の命日。

 先生はある時、このようなことを言われました。

 「あなたたちとはね、血は繋がっていないけれど、音楽の価値観は指導を通じて、あなたたちの遺伝子にきっちり伝えているから」と。

 ありがとうございます。

 先生のおかげで、弦楽四重奏馬鹿となり、音楽振興に身を尽くすようになりました。

 音楽振興は辛苦の連続ですが、それをチャラにしてくれるこの上ない悦びをいただいています。



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