L.v.ベートーヴェン 弦楽四重曲 第14番 嬰ハ短調 作品131

  バロックから私たちの時代の楽曲で祝うベートーヴェン250歳 10夜のオマージュ「第4夜」の終曲。

 L.v.ベートーヴェン 弦楽四重曲 第14番 嬰ハ短調 作品131

 「ベートーヴェン55歳。人生の最期に残した40分の回想録とは?」


 この曲は亡くなる前年の作品で、絶筆から数えて3番目にあたる名作ですが、まずはその動画からどうぞ。

 この曲に心を奪われたら最後。

 名作と呼ばれる他のどのような曲も色褪せて、物足らなく感じてしまうのです。

 私は23歳の時にそうなってしまいました。

 あまりにも若い時に究極の音楽に出会うのも善し悪しです。

 そしてヴァイオリン、ヴィオラ、チェロ奏者だけが演奏を許されたこの音楽の最高峰を、世界的な指揮者たちが対峙したい一心から、弦楽オーケストラの編成で演奏するのです。

 かのバースタインも。

 こちらがそのバースタインの動画です。

 ベートーヴェンは「第九」交響曲と時期を同じくして、後期弦楽四重奏曲に着手しました。

 最初の3曲である第12番、第15番、第13番「大フーガ」付は彼の熱烈な崇拝者、ロシア大使ガリツィン候の依頼によるものですが、第14番と第16番は全く自発的に書き上げられたのです。

 前3作を書き上げた後、創造力が泉のように湧き出て、創作の喜びを抑えられなかったのではないのでしょうか?

 それを反映して第14番は7楽章構成で、それらが切れ目無く続けて演奏される破格の音楽となっています。

 

 自由で流動的な音楽はベートーヴェンの人生の回想録を走馬灯で映したようで、劇的な流れから40分はあっという間です。

 そして後期作品特有の深い瞑想性と精神的に浄化された世界は前3作よりも突出したものとなりました。

 人類の至宝と言える傑作です。

 あっという間の40分。

 第1楽章の漆黒のフーガは重暗い少年時代の回想。

 明るく平穏な第2楽章はウィーンにて成功を重ねしなやかな自信に支えらた反映。

 わずか11小節の第3楽章は長大な次の楽章への導入。

 「さてここでベートーヴェンの恋バナを。」と弁士が語るよう。

 第4楽章は主題と変奏で、全曲の中核を成す長大、そして壮大な音楽。 

 これまでのいくつかの恋を回想し、あたたかい家庭への憧れを夢想するかのように明るくそしてしんみりと響きます。

 最後のピチカートが切なく、まるで涙ポロリ。

 狂喜乱舞の第5楽章は引き取った弟カールとの心のすれ違いを諧謔的に描く。

 そして圧巻、第6楽章と終楽章。

 美しくも哀しい第6楽章の音楽。

 これも導入として奏でられ、緊迫とした終楽章へと突入。

 20数年前、ベートーヴェンは遺書を書きましたが、苦難と孤独を乗り越え、音楽に邁進して新たに生きていくことを決意しました。

 その再宣言のようです。

 慟哭と諦めの後、強烈な総奏での終幕。

 ベートーヴェンの素顔はこんなにも人間らしいものか?と涙を絞られるのです。

<おまけ>別の演奏でもお楽しみください。

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